193.アイデンティティ・クライシス(1)スポーツ選手の引退後

先日、ある地方新聞からサッカー選手の引退後の犯罪について取材を受けました。全てを競技だけに捧げてきた選手は、引退すると、自分の存在意義を喪失する「アイデンティティ・クライシス」に陥りやすいといわれます。酒やギャンブルで問題を起こす事例、悪くすると薬物や犯罪に至る事例も多くあります。

スポーツ選手が自分を見失う要因には3つあります。競技の天才から普通の若者になる現実を受け入れられない「全能感の喪失」、競技以外の社会経験が少ない「ライフスキルの不足」、競技で得られた刺激を別のことに求める「刺激欲求」です。今回は、それを避けるためのJリーグの川崎フロンターレと水戸ホーリーホックの取り組みをご紹介します。

192.ヨーロッパに学ぶ(16)イギリスの成長産業

イギリスは1995年から2025年までの30年間で、物価が2倍に上がった一方、賃金も2.8倍になりました。1980年代のサッチャー改革と1990年代のEU統合の恩恵が大きかったといわれます。ただし近年は、成長が停滞して国民の不満が大きくなり、EU離脱につながりました。

イギリスは島国で資源が限られている先進国なので、日本と似ています。現在、イギリスが成長エンジンとして注力しているのは、AI・ITテクノロジー、グリーン産業、大学起点のベンチャー育成、クリエイティブ産業、インド・アジアとの連携の5つの領域です。今回は特に、インペリアルカレッジロンドンの研究注力領域と、電気自動車の普及状況についてお話します。

191.ヨーロッパに学ぶ(15)イギリスのEU離脱の影響

イギリスは2016年にEU離脱の是非を問う国民投票を行い、その結果、2020年にEUを離脱しました。若者世代は経済的メリットが大きいEU残留を希望しましたが、シニア世代は古き良き英国に戻したいと考え、EU離脱に投票しました。

国民の分断が進み、2016年以降、首相が6人も変わるなど、政治が不安定になりました。コロナ禍を経て、経済成長の回復、生活費の高騰、移民政策などが大きな課題になっています。移民が減って人手不足になった一方、若者は大陸欧州で働きにくくなったので、就職先も変化しています。

また、雇用される側が雇用主に柔軟な働き方を希望できる「フレキシブルワーキング法」については、日本のモデルにもなると思います。

190.ヨーロッパに学ぶ(14)イギリスの社会と就職

イギリスは階級社会です。例えば、サッカーは工場労働者の娯楽として広まり、今でも工業都市の労働者階級に人気のスポーツです。一方、上流階級は私立の名門学校に通い、ラグビー、テニス、クリケットなどに親しむのが一般的です。

イギリスの大学進学率は、第二次大戦後にはわずか数パーセントと低く、上流階級が中心でした。現在は大学も増え、進学率は約60%まで上昇しました。大学が大衆化し、階級社会を壊してきた一方で、競争意欲の低い若者も増加し、新しい格差を生みつつあります。若者の失業率は10%を超えるため、意欲的に職業経験やインターンシップに参加する必要があり、それができないと取り残されてしまいます。

189.日本人の休暇を考える(3)欧米企業の働き方事例

今回は、欧米企業の「仕事+休暇」について、4つのタイプを紹介します。1つめは、長期休暇をとりながら、必要最低限の仕事をリモートワークで行うスタイルです。1か月の休暇中に、午前の2時間だけはメールチェックやオンライン会議を行うようなことは、管理職クラスであれば、よくある休み方です。

2つめは、オフサイトで会議を行うことで、発想を変えるというスタイルです。シリコンバレーでは、「会議室では新しいアイデアは生まれない」とよく言われます。3つめは、日常から離れた自然豊かな環境で心身をリセットする「リトリート」というスタイルです。4つめは、世界中を移動しながら働く「デジタルノマド」です。日本もデジタルノマドについて、最長6か月滞在できる制度を導入しました。

188.日本人の休暇を考える(2)ワーケーションのススメ

ワーケーションは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた造語です。観光地やリゾート地でリモートワークを活用し、働きながら休暇をとる過ごし方です。①リゾート型、②二拠点居住型、③地域創生型の3つのタイプがあります。

「ワーケーションの聖地」といわれる和歌山県白浜町は、①リゾート型の好事例です。2015年に外資系IT企業がサテライトオフィス設立し、業務の成果が向上したという報告をしています。②の事例としては長野県の軽井沢や蓼科など、③の事例としては徳島県神山町が有名です。ワーケーションは、企業と地域の両方にとって、人材をひきつけるメリットがあるため、今後さらに広がっていくでしょう。

187.日本人の休暇を考える(1)有給休暇の現状

日本企業の有給休暇取得率は、2010年代前半には50%以下でしたが、2025年には67%まで改善しています。ただし業界によるばらつきがあり、インフラ系企業や製造業では70%以上ですが、宿泊・飲食サービス業や小売業は50%台にとどまっています。

一方、欧州では100%取得が一般的です。なぜ日本では有休を取得しにくいのでしょうか。周囲に迷惑とかけるという意識、仕事の属人化、長時間労働が美徳、などの理由が考えられます。お手本となる企業事例として、クボタとメルカリをご紹介します。

若い世代では、「単に給料が高い会社」ではなく、「人生を大切にできる会社」を選ぶ人が増加しています。有給休暇を取得しにくい会社は、良い人材を採用・維持できないことになります。

186.交渉・調整力を高める(3)実践的な交渉術

今回は、交渉・調整に関する基本知識について説明します。交渉においては、相手への依存度が大きいほど不利になります。そのため、BATNA(不調時対策案)と呼ばれる代替案を用意できると、強気に交渉できるようになります。

また、交渉でははじめの提案が重要になります。最初の提案をもとに、「返報原則(お互いにお返しする心理)」により、双方が譲っていくプロセスとなるためです。自分に有利な提案を最初に行うことを「アンカリング(錨を下すこと)戦術」と呼びます。

他にも、「選択的情報開示(ウソではないが、言葉を選ぶ)」「ローボーリング(はじめに低いボールを投げる)」「特別感(あなただけ、今だけ)」「ドア・イン・ザ・フェイス(一回目にわざと断らせて、2回目に本題を出す)」などの交渉術があります。

185.交渉・調整力を高める(2)問題の再焦点化を考える

今回は、対立を調整して解決するためのフレームワークを紹介します。例えば、夏の暑い日に外出から帰った社員は、冷房温度を下げたがります。一方、ずっと社内にいる内勤社員はそれだと寒すぎると感じます。どのように解決するでしょうか?

この場合、温度設定が低い・高いという、「直接の衝突点」で話していても、解決にはつながりません。まずお互いの「真のニーズを確認」し、「問題を再焦点化」して、それに対する「建設的なアイデア」を出して合意することが、必要なアプローチです。

このケースでは、外勤社員は「汗が引くまで涼しくしたい」、内勤社員は「風邪をひきたくない」が真のニーズです。問題を再焦点化すると、「外勤社員が汗を引くまで涼しくして、内勤社員が風邪をひかない方法を考える」ことになります。

184.交渉・調整力を高める(1)5つのパターンを知る

欧米では、意見や利害の対立を適切に解決する手法として、「コンフリクト・マネジメント」はビジネスパーソンの基本スキルです。これは社内の利害調整や、顧客やビジネスパートナーとの交渉に使える考え方です。また、家族や友人との意見調整にも有効です。

交渉・調整の解決策は、5つのパターンに分類されます。自分と相手がともに80点以上と感じる「協調(Win-Win)」を目指すのが最善です。しかし、すべての場面で協調による解決を行うのは現実的ではありません。

他の4つのパターンである、強制(Win-Lose)、服従(Lose-Win)、回避(Lose-Lose)、妥協(Lose-Lose)が適切なこともあります。今回は交渉の心構えと、この5つのパターンがそれぞれ適切・不適切な場合について考えます。