078.日本の雇用システムの変化(4)転勤に関する人事制度変更の事例

日経新聞が引用している調査によると、大学生が行きたくない会社の2位が「転勤が多い会社」で、10年前と比較して、急上昇しています。男女が働き続けることが当たり前の時代に、どちらかが転勤になると、多くの場合、女性がキャリアを分断されるからでしょう。日本では毎年2万人の女性が夫の転勤により失職していると言われます。実に大きな社会的損失です。

そのため、転勤制度を変更する企業が増えています。今回はいくつかの先進的な企業の事例を紹介します。まずAIG損保です。AIG損保は、2018年に原則として転勤制度を廃止し、家族がいる社員が安心して働き続けられるようにしました。採用の競争力も上がったそうです。

明治安田生命やみずほフィナンシャルグループは、転勤できる社員には手厚い手当で報いる制度を導入しました。パナソニックやソニーは、転勤しなくても昇進・昇格できる仕組みを導入しています。

077.日本の雇用システムの変化(3)転勤したくない社員の増加

マイナビの学生アンケートでは、全国転勤を受け入れる人が約30%、エリア限定で転勤も受け入れる人が約30%、転勤がある企業はできるだけ就職したくない人が約40%です。人手不足の時代、従来のままの雇用システムでは、若手人材の採用は難しくなります。

企業は、転勤により人材育成をするといいます。これは新卒入社の男性だけが長時間働いていた時代には、機能していたのかもしれません。しかし現在は違います。個人や家族にとって、転勤はデメリットの方が大きいことに多くの人が気づいています。

ヨーロッパでは、通常の家族生活を送る権利を保障した欧州人権条約があり、本人の承諾なしに転勤させることは人権侵害になります。大学生の就職支援をしていると、現状の転勤制度を維持しようとする日本企業は、採用競争で明らかに不利になると感じます。

076.日本の雇用システムの変化(2)なぜジョブ型に移行すべきなのか

私は、ジョブ型雇用の外資系会社に長く勤務しました。その経験から、日本企業もジョブ型に移行しないと国際競争力が維持できないと考えています。

まず、優秀な専門職の採用の視点です。AIやデータ分析などの高度な専門人材は世界中で取り合いです。日本人でも、最も優秀な層は、日本企業には行きません。配属ガチャを嫌うためです。また、若手社員の給与が年功序列で低く抑えられている企業は、人気がありません。

優秀な社員を中途で採用しようとしても、メンバーシップ型だと年金や退職金で損をすることになります。また、夫婦で働き続けたい若手は、勤務地を選べない企業(転勤がある企業)は、選択肢から除外します。いずれも、ジョブ型を導入すれば解決する問題です。

075.日本の雇用システムの変化(1)メンバーシップ型からジョブ型へ

マイナビの調査では、9割近い学生が「入社前に配属先を知りたい」と答えています。いわゆる「配属ガチャ」を嫌うためです。私の実感でも、希望する勤務地や職種に配属されなければ、内定を断り、別の会社をさがす学生が増えています。

日本では、配属先や職務内容を決めず、新卒学生を一括採用する「メンバーシップ型雇用」が一般的です。しかし、社会の成熟化、グローバル化の進展などにより、この日本の雇用システムの弊害が指摘されています。一方、日本以外の国では、職務内容が明確な「ジョブ型雇用」が一般的です。

ジョブ型雇用は、多様な専門性のある人材(中途入社、女性、外国人、シニアなど)が活躍するために適しています。今回はジョブ型雇用の特徴とメリット、デメリットについてお話します。