164.スポーツ選手のキャリアを考える(4)フェンシングはなぜ強くなったのか

フェンシングは日本では競技人口が7000人しかいない競技です。しかし、2008年北京五輪で太田雄貴選手が銀メダルを獲得して以来、2024年のパリ五輪では5つのメダルを獲得するまでに強くなりました。

日本フェンシング協会は、太田雄貴氏が会長となり、「アスリート・フューチャー・ファースト」という理念を掲げています。これは太田会長の「メダルを獲得すれば、人生が大きく変わると思っていたが、そうではなかった」という体験がベースです。「勝利至上主義」から脱し、長期的な人生設計を考えることが競技強化にもつながるという価値観の転換です。

具体的には、日本代表チームに入るには、英語テストで外国人コーチとコミュニケーションできるレベルの得点を取る必要があります。また、自分でスポンサー企業を探す活動も支援しています。

163.スポーツ選手のキャリアを考える(3)Jリーグ・水戸ホーリーホックの取り組み

Jリーグの平均引退年齢は26歳の若さです。子ども時代からサッカー一筋の場合、「サッカーをやめた自分には何の価値もない」と感じ、深刻なアイデンティティ・クライシス(自己喪失)に直面するケースもあります。Jリーグは2000年代初めから、引退後キャリア支援の必要性を意識してきました。

水戸ホーリーホックは、J2が長く、2026年に初めてJ1に昇格したチームです。大企業の支援が弱く資金が少ないため、限られた人材を育てることに注力し、「人材育成の水戸」として知られます。2018年からは、西村卓朗GMが自分の経験をもとに「Make Value Project」という独自の人材育成プログラムを立ち上げました。自己分析を促し、視野を広げる支援が中心です。今回はこの取り組みについて紹介します。

162.スポーツ選手のキャリアを考える(2)UNIVASの取り組み

2019年にスポーツ庁の旗振りでUNIVAS(大学スポーツ協会)が設立されました。大学スポーツの価値を最大化し、文武両道(デュアルキャリア)を推進する目的です。これはアメリカのNCAA(全米大学体育協会)がお手本です。米国では学業と競技の両立が厳しく、GPA(成績)が基準に達しないと試合に出られないようなルールがあります。また、大学スポーツはビジネスとしても成功しています。

日本では各競技団体がすでにインカレなどの試合を運営していること、大学間で成績重視の考え方にバラつきがあることなどから、UNIVASの活動は当初の理念通りには進んでいません。しかし、方向性は正しく、帝京大学ラグビー部や青山学院大学駅伝部のような強豪チームは、デュアルキャリアの指導をしています。

161.スポーツ選手のキャリアを考える(1)アントラージュとは

私は現在、大学院で「スポーツ選手のライフキャリア」を研究しています。3月に修士論文を提出し、その成果を『キャリア・アントラージュ 社会で活躍するスポーツ選手の育て方』という書籍として出版することになりました。今月は、その書籍の内容を抜粋してお話します。

「アントラージュ」とは、フランス語で「周囲を取り巻く人たち」という意味です。国際オリンピック委員会(IOC)が提唱し、日本のスポーツ界も賛同しています。スポーツ選手は子どもの頃から、競技偏重になりがちで、引退後の生活に困ることが起こりがちです。そうならないように、親、指導者、競技関係者など、選手を取り巻く人たちが、「競技は人生の一部である」という「デュアルキャリア」を意識する必要があります。